既成の映画ルーティンをことごとく破壊し、観る者を全く新しい地平へと誘う映画監督、シャンタル・アケルマン。2022年にはイギリス映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画100」にて代表作『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』 が見事1位に輝いた(2位はA・ヒッチコックの『めまい』、3位はO・ウェルズの『市民ケーン』)。今年で3度目となる今回の特集上映では『ジャンヌ・ディエルマン~』など昨年上映された12作品に加え、極めて重要なドキュメンタリー3作を初めてラインアップ。また、映画編集者として公私ともに30年もの間アケルマンを支えたクレール・アテルトン氏の来日も急遽決定。静謐な眼差しで自己と世界を見つめ続けたアケルマンの旅は、今も続いている。
シャンタル・アケルマン Chantal Akerman
1950年、ベルギーのブリュッセルでユダヤ人の両親のもと生まれる。母方の祖父母はポーランドの強制収容所で死去。15歳のときにジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』(65)を観て映画を志し、自ら主演を務めた短編『街をぶっ飛ばせ』(68)を初監督。その後ニューヨークにわたり、初めての長編『ホテル・モンタレー』(72)を手掛ける。1975年、25歳にして平凡な主婦の日常を描いた3時間を超える『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を発表、世界中に衝撃を与えた。その後もミュージカルからドキュメンタリーまでジャンル、形式にこだわらず数々の意欲作を世に放つ。2015年10月、パリで逝去。
LINE UP
街をぶっ飛ばせ
Saute ma ville
出演:シャンタル・アケルマン
1968年 / ベルギー / モノクロ / 12分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
当時18歳だったアケルマンの記念すべきデビュー作。狭いキッチンで縦横無尽に暴れ回る若い女性の支離滅裂な行動は、驚くべき事態で幕を閉じる。その後の反逆的な作品群の原点とも言える破壊的なエネルギーに満ちた、あまりに瑞々しい短編。
※『家からの手紙』と併映
ホテル・モンタレー
Hôtel Monterey
1972年 / ベルギー /カラー / サイレント / 63分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
6/30(日) 13:00の回上映後、坂本安美さんによるトーク有
アケルマン初の長編。ニューヨークの安ホテル。ロビー、寝室、暗闇へと続く長い廊下、時々姿を現す住人たち……。アケルマンと盟友のキャメラマン、バーベット・マンゴルトの魔法によって、ありふれた空間が非現実的な、ぞっとするほどの美が目配せする舞台へと変貌してゆく。
私、あなた、彼、彼女
Je Tu Il Elle
1974年/ ベルギー・フランス / モノクロ / 86分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
部屋を飛び出たアケルマン自身が演じる“私”がトラック運転手と行動を共にし、訪れた家で“彼女”と愛を交わす。殺風景な空間と単調な行為が閉塞感や孤独を際立たせ、激しく身体を重ね合うことで悦びがドラマティックに表現される。
ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地
Jeanne Dielman, 23, quai du Commerce, 1080 Bruxelles
出演:デルフィーヌ・セリッグ、ジャン・ドゥコルト、ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ
1975年 / ベルギー / カラー / 200分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
息子とブリュッセルのアパートで暮らす主婦・ジャンヌの日常。その執拗なまでの描写は我々に時間の経過を体感させ、反日常の訪れを予感させる恐ろしい空間を作り出す。アケルマンの代表作にして映画史上においてもエポックメイキングな作品。
家からの手紙
News from Home
1976年 / ベルギー・フランス / カラー / 85分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
1970年代NYの荒涼とした街並みに、母が綴った愛情あふれる手紙を読むアケルマン自身の声がかぶさる。都会の寂しさと、遠く離れた家族の距離がエレガントな情感を持って横たわる、映画という<手紙>。
※『街をぶっ飛ばせ』と併映
アンナの出会い
Les Rendez-vous d’Anna
1976年 / ベルギー・フランス / カラー / 85分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
1970年代NYの荒涼とした街並みに、母が綴った愛情あふれる手紙を読むアケルマン自身の声がかぶさる。都会の寂しさと、遠く離れた家族の距離がエレガントな情感を持って横たわる、映画という<手紙>。
※『街をぶっ飛ばせ』と併映
一晩中
Toute une nuit
出演:オーロール・クレマン、チェッキー・カリョ、ヴェロニク・シルヴェール
1982年 / ベルギー・フランス / カラー / 90分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
ブリュッセルの暑い夜、眠りにつくことのできない人々。官能的な熱を帯びた一晩の中で連結していく出会いや別れ。詩的な青色の夜を描き出す撮影監督の一人に、リヴェット、ゴダール、カラックスらの作品を手掛けたカロリーヌ・シャンプティエ。
ゴールデン・エイティーズ
Golden Eighties
出演:デルフィーヌ・セリッグ、ミリアム・ボワイエ、ジャン・ベリー、リオ
1986年 / ベルギー・フランス・スイス / カラー / 96分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
美容院やカフェが並ぶパリのカラフルなブティック街を舞台に、パステルカラーの衣装に身を包んだ従業員や客たちが恋模様を歌い上げるミュージカル。ロマンティックな浮遊感と、愛に対するアケルマンの容赦ない視線が巧みにバランスされている。
アメリカン・ストーリーズ/食事・家族・哲学
Histoires d’Amérique:Food,Family and Philosophy
出演:カーク・バルツ、エスター・バリント、ジュディス・マリーナ
1989年 / ベルギー・フランス / カラー / 91分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
次々に現れては自分のエピソードを語り、去っていく老若男女。彼らは皆ヨーロッパからやってきたユダヤ系の人々だ。記憶を手繰りながら時にユーモラスに、辛辣に語られていく彼らの幸福や悲しみ、それぞれの<アメリカン・ストーリー>。
囚われの女
La Captive
脚本:シャンタル・アケルマン 撮影:サビーヌ・ランスラン 編集:クレール・アテルトン
出演: スタニスラス・メラール、シルヴィ・テスチュー、オリヴィエ・ボナミ
2000年 / フランス / カラー / 117分
© Corbis Sygma - Marthe Lemelle
6/21(金) 18:40の回上映後、クレール・アテルトンさんのトーク有
祖母とメイド、そして恋人アリアーヌとともに豪邸に住むシモンは、アリアーヌがある女性と関係を持っていると信じ込み、次第に強迫観念に駆られていく。プルーストの「失われたときを求めて」の第五篇「囚われの女」を大胆に映像化。
オルメイヤーの阿房宮
La Folie Almayer
出演: スタニスラス・メラール、マルク・バルベ、オーロラ・マリオン
2011年 / ベルギー・フランス /カラー / 127分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
東南アジア奥地の小屋で暮らす白人の男オルメイヤー。彼は現地の女性との間に生まれた娘を溺愛するが、娘は父に反発するように放浪を重ねていく……。原作は『地獄の黙示録』のもとになった「闇の奥」で知られるジョゼフ・コンラッドの処女小説。
ノー・ホーム・ムーヴィー
No Home Movie
2015年 / ベルギー・フランス / カラー / 112分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
6/26(水) 18:40の回上映後、クレール・アテルトンさんのトーク有
ポーランド系ユダヤ人である母親の日常をアケルマン自身が撮影。浮かび上がるのはささやかな出来事や家族の思い出、そしてアウシュヴィッツ収容所で過ごした母の記憶。母は編集中に亡くなり、アケルマン自身も本作が完成した後にこの世を去った。
アケルマン×アテルトンによるドキュメンタリー3部作
今回のアテルトン氏来日に際し、最も強く上映を希望されたのがこのドキュメンタリー3部作。
異国の地から世界の“今”を鮮烈に描き出したふたりの協働の記録。
東から
D'Est
1993年 / ベルギー・フランス / カラー / 115分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
6/23(日) 11:30の回上映後、クレール・アテルトンさんのトーク有
ポーランドやウクライナ、東ドイツといったソ連崩壊後の旧共産主義国の都市とそこで暮らす人々をとらえたドキュメンタリー。地名もナレーションも排し、透徹した眼差しで対象物を見つめることによって映像そのものが静かに語りはじめる。
南
Sud
1999年 / ベルギー・フランス / カラー / 70分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
6/23(日) 14:30の回上映後、クレール・アテルトンさん他のシンポジウム有
アメリカ南部での映画製作を計画していたアケルマンだったが、撮影直前、テキサスで黒人のジェームズ・バード・ジュニアが白人至上主義者たちによってリンチの果てに殺害される。この恐ろしい事件に焦点を当てながら、アケルマンは地元の人々へのインタビューを通し、アメリカ社会に潜む憎悪とその背景を検証していく。
向こう側から
De l’autre côté
2002年 / ベルギー / カラー / 102分
Collections CINEMATEK - ©Fondation Chantal Akerman
6/23(日) 17:45の回上映後、クレール・アテルトンさんのトーク有
9.11の直後、危険を冒してでもメキシコからアメリカへ越境する移民たち。不条理な状況を受け入れざるを得ない人々の証言によって、国境や砂漠の地の不在そのものが強烈な重みを増し、21世紀初頭の<行き止まり>を観客に内から体感させる。『東から』『南』から続くドキュメンタリー3部作を締めくくる作品。
緊急来日決定!
クレール・アテルトン Claire Atherton
1963年、サンフランシスコで生まれ、パリで育つ。姉はチェリストのソニア・ヴィーダー=アテルトン。84年にデルフィーヌ・セリッグの舞台を記録したTV作品“Letters Home”(86)を機にアケルマンと出会い意気投合。以後『東から』『南』『向こう側から』のドキュメンタリー三部作や『囚われの女』『オルメイヤーの阿房宮』といった文芸作、さらには遺作の『ノー・ホーム・ムーヴィー』まで、約30年にわたってアケルマン作品の編集を手がけた。
公開日 |
地 域 |
劇場名 |
上映作品 |
中部・北陸 |
上映終了 |
名古屋市 |
ナゴヤキネマ・ノイ |
『ホテル・モンタレー』『南』『向こう側から』『アンナの出会い』『ジャンヌ・ディエルマン~』『囚われの女』『私、あなた、彼、彼女』 |
関 西 |
上映終了 |
大阪市 |
シネ・ヌーヴォ |
『ホテル・モンタレー』『南』『向こう側から』『ジャンヌ・ディエルマン~』 |
上映終了 |
京都市 |
出町座 |
『ホテル・モンタレー』『南』『向こう側から』『街をぶっ飛ばせ』『家からの手紙』『一晩中』『アンナの出会い』『東から』『ノー・ホーム・ムーヴィー』 |
主催:マーメイドフィルム、アンスティチュ・フランセ
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
宣伝:VALERIA